志ん輔の「刀屋」2011/07/06 06:37

 志ん輔は「刀屋」には、特別の思い入れがあるはずである。 亡くなった師 匠の志ん朝が、落語研究会で最後に演じたのが「刀屋・おせつ徳三郎」だった からだ。 平成13(2001)年4月25日の第394回公演、亡くなったのは10月1 日であった。

 女のひと、いいですね、と志ん輔は始めた。 女のひと、大好き。 数日前 も渋谷で飲んでいたら、小料理屋のおかみが、午前中から夕方まで踊りの稽古 をして、のどが渇いたと入ってきた。 宝塚の男役みたいで、ちゃきちゃきし ていて、いいんだ。 名刺交換をした。 若い娘がいい。 中年がまた、いー ーい。 でも、一対一となると、からきし意気地がない。 外面似菩薩、内心 如夜叉ともいう。 お寺で、落語会をやることが多い。  志ん輔がここで、 日蓮宗(の南無妙法蓮華経)は激しく、心中には南無阿弥陀仏が似合うと、「搗屋 幸兵衛」みたいな話をしたのには、理由があった。 

 「刀屋」に入ったのだが、「おせつ徳三郎」の前半、いわゆる「花見小僧」の 部分をまったく省いたので、話がわかりにくくなった。 お店から暇を出され た男のおばさんが、そのお店のお嬢さんおせつの婚礼へ出かける。 男は、ち きしょうといい、箪笥の抽斗から金を集めて、日本橋村松町の刀屋へ行き、「斬 れる刀を」と言う。 備前物で二十両。 もっと斬れないの、でも二人斬れる やつ。

 主は訳を聞こうとし、うちにもあなたと同じような年の倅がいたが、道楽者 で勘当した、今頃どこでどうしているだろうかと思う。 あなたのような方に 育てるのは大変、苦労なものだ。 話してごらんなさい。 訳が分かれば、刀 を只で貸してあげる。 男は、友達の話なのだがと、お店に奉公して、お店の お嬢様とデキちゃった、いい仲になっちまった。 友達は暇を出された。 そ のお嬢様が、今日、婿を取るという。 刀屋の主は、友達のことをあきらめた お嬢様はえらいと言い、友達にも商人の大人らしい仕返しの仕方がある、大き な身代になって、いいおかみさんをもらい、二人でお店の前を行ったり来たり することだ。

 そう諭している店の前が騒がしくなる。 迷子捜し、十九の迷子、お店のお 嬢様が婚礼の席から逃げ出した。 徳三郎は、刀屋を飛び出し、おせつの叔母 のいる深川へ。 徳三郎かい、今ここに座っていたのが、おせつ。 橋の中ほ どで、「徳かい、会いたかったよ。 また、あの世で一緒になろうね。 手を合 わせておくれ。 南無妙法蓮華経がうちのお宗旨。 南無妙法蓮華経」と、二 人で飛び込むが、深川木場だから、下は筏で「ドスン」「お材木で助かった」

 志ん輔の、特別の思い入れが、話を難解にしたような気がする。