入船亭扇遊「三井の大黒」前半2018/01/31 06:35

 お寒いところをお運び頂きまして、お足許のお悪い中というのが、ぴったり の日で…。 私の方は相変わらずで、器用な方がいらっしゃいますが、電球の 球も換えられない。 電球の球、おかしいけれど、そう言った。 水道のパッ キン換えろ、って言いましたね。 水道の蛇口からポタン、ポタンと垂れて。  日曜大工で、器用に犬小屋とか作る人もいる。 こないだ、あんたに吊っても らった棚だけど、落っこちたよ。 えっ、何か載せやしなかったか。

 妙な奴が突っ立って見ている、変な恰好をしてる、お鷹匠が迷子になったよ うな。 ぶつぶつ独り言を言ってるんだ、江戸の大工はどれも形(なり)は勇 ましいが仕事は下手だ、鼻の頭掻いてるのが一番まずい、鉢からげ(鉢巻)し ているのは、松兄ィのことだ、いじればどうにかなる、なんて言ってる。 お い、みんな、あの野郎だ、ひっぱたいちゃおう。 ボカボカボカボカ!

 何やってんだ! 棟梁だ。 何で手荒な真似をするんだ。 秀が、こいつの 言うのを、そばで聞いたんだ。 江戸の大工は形は勇ましいが、仕事は下手だ、 俺が一番まずいって。 お前、仕事はうまいか、丁寧か、下手でぞんざいで、 いいじゃないか。 そうなんですよ。 この人は、目が高い。 手前え達は、 仕事をしてろ。

 すまなかったね。 かなり、いかれたろ、いくつ殴られた? 十八。 数え ていたのか。 お前さんは何だ? 俺は、この帳場を預かる政五郎だ。 わし は西の方の番匠だ。 番匠といえば大工さんだね、お前さんもよくない、同職 をけなすのは。 だから、殴られてもしょうがないと思ってた。 江戸でどこ か行くところがあるのか。 身寄り頼りもない。 困るだろ、どうだいウチに 来て見ねえか。 忙しいんだ、手伝ってくれねえか。 棟梁、嫁さんがありゃ あしないか、あるなら相談しといた方がよくはないか。 大丈夫だ、つべこべ 言うようなら、かかあを叩き出しても、お前をウチに置く。 さすがは関東の 棟梁だ、その気前、褒め置く。

 橘町、帳場から目と鼻の先だ。 今、帰えった。 あの大神宮様のお札配り みたいな人は、誰だい。 今、出て来た面白い顔の人が、お内儀か。 西の方 の大工で、手伝ってくれることになった、口はよくないが。 お勝と申します。  オハチにお目にかかります。 ハラ減ってるのか、手盛りでやってくれ、おか ずはその辺を開けると、鮭の焼き冷ましかなんかがある。 もういいのか、片 さなくていい、すぐみんなの飯になる。

 ただいま! ただいま! ただいま! みんな帰ったか、ご苦労、ご苦労。  ご苦労、ご苦労。 親方が二人になっちゃった。 今日からウチにいてもらう ことになった、一言、謝っておけ。 さっきはすまなかったな、痛かったろう。  痛ーーい、お前のが一番痛かった、仕事はまずいが、力は強いな。

 どこの生れだ? 飛騨の高山。 飛騨には左甚五郎利勝先生という名人がい るそうだが、会ったことがねえか。 ある。 どんな方だ? つまらない男だ。 名前を聞いてなかった。 名前は? あった、それがね、忘れた。 箱根山 を越えた時、汗かいてねえ、忘れた。 間抜けな奴だ、みんな、名前を考えて やってくれ。 ぼうーーッとしていて、花火がポンと上がって、水に落っこち てシュウと消えたような奴、ポンシュウってのはどうだろう。 いいなあー、 前からポンシュウになりたいと思っていたよ。

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