日本の武士を傭兵に、覇権を手にしたオランダ2020/07/11 06:56

 「戦国~激動の世界と日本(第2集)」「ジャパン・シルバーを獲得せよ 徳川家康×オランダ」の最後に、もう一つ初めて知った話があった。 スペインとオランダの植民地争奪は、モルッカ諸島(インドネシア)やマラッカ海峡などで激しくなっていた。 オランダ国立公文書館の文書に、日本が商品として輸出した積み荷リストがある。 火縄銃などとともに、日本人の名前がある、サムライ、つまり傭兵だ。 戦国時代が終わり、失業した武士たちを、傭兵として新たな場所へ、植民地争奪戦に投入したのだ。 ジャック・スペックスは、家康と交渉して出国許可を取り、傭兵をスペインの最重要地点、特産品香辛料を産するモルッカ諸島へ送り、オランダが勝つ。 こうしてオランダは、スペインの植民地をつぎつぎに奪うことになる。

 世界の船の3/4がオランダのものとなり、日本と結びつくことによって、オランダは世界の覇権を手にする。 日本は、世界史と深くかかわったのである。 ヨーロッパの大戦争、三十年戦争(1618-1648)では日本の大砲が投入され、オランダが勝利した。 敗北したスペインの没落が、決定的となった。

 世界史の大転換。 日本とヨーロッパが結びついた時、新たに出現したグローバル経済を最も効率的に利用したものが、勝利を手にした。 戦国時代の日本もまた、世界史の最前線であった。 世界もまた一つになる、新たな時代を経済が開いたのである。(ケネス・ポメランツ シカゴ大学教授)

犬もケン物、プロ野球jeraセ・リーグ2020/07/12 07:52

 6月19日にプロ野球が開幕して、ようやく日常が戻ってきた感じがしている。 テレビでスポーツ実況のない3か月ほどは、実に寂しい、気の抜けたような期間であった。 これほどまでに、スポーツが生活に入り込んでいるとは思ってもいなかった。 7月9日からは、制限はあるが観客が入場できることになった。

 隠れジャイアンツとしては、出だしの一巡の15試合、10勝4敗1分けで首位を走っているので、今のところ、ご機嫌である。 写真は、7月3日(金)の中日戦、菅野が1安打の完投、坂本がソロホーマー、北村が3点二塁打して、5-0で勝った試合のテレビ画面である。

 開幕から「jeraセ・リーグ」の「jera」って、何だろうと思っていた。 調べると、東京電力グループと中部電力が出資した発電会社で、両社の燃料事業(上流開発・燃料調達・燃料トレーディング・輸送)から、日本国内・海外の火力発電所の建設・運営までの発電事業を一貫して承継して、世界最大級の火力発電会社となった資本金50億円の株式会社だそうだ。 「jera」という社名は、Japanの頭文字、energyの頭文字にera(時代)という語を組み合わせたもので、「日本のエネルギーを新しい時代へ」という意味が込められているという。

 その株式会社jeraが、2020年から3年間、プロ野球セントラルリーグ公式戦のタイトルパートナー(冠スポンサー)契約をしたというわけだ。 スポーツと火力発電事業、SDGs関係あたりから苦情が来そうな気もしないではないのだが…。

信長の鉄砲玉にタイ鉱山の鉛2020/07/13 07:05

9日に見ていなかったと書いたNHKスペシャル「戦国~激動の世界と日本」(第1集)「秘められた征服計画 織田信長×宣教師」を見ることができた。 「ヨーロッパの16世紀の文書が公開され、信長・秀吉と、来日したキリスト教宣教師、そして背後にいたポルトガルとスペインとの深い繋がりが見えてきた。それぞれの思惑と、熾烈な駆け引きを描く。」という番組である。

日本の戦国時代(1467年応仁の乱~1615年豊臣氏の滅亡)は、世界的には大航海時代と、キリスト教世界布教の時代と重なっていた。 16世紀の文書というのは、バチカン市国イエズス会ローマ文書館の宣教師たちの報告書などである。 フランシスコ・ザビエルに始まる、日本にやってきた宣教師たちは、当時の超大国スペインが全世界をキリスト教国にする使命を持っていた。 ザビエルから三代目のリーダー、フランシスコ・カブラル(眼鏡を知らなかった日本人は「四ツ目のカブラル」と呼んだ)は日本全国のキリシタンからの情報網を持ち、1572(元亀3)年に将軍の暗殺計画のあることもつかんでおり、戦国武将(大村純忠、毛利輝元、大友宗麟、武田勝頼、徳川家康)と接触を試みていた。 そして、織田信長について、もともと弱小国の武将ながら、鋭い判断力と慎重さを持つと高く評価して、1572(元亀3)年岐阜城を訪問、会談した。

1575(天正3)年、織田対武田の長篠の戦いは、鉄砲対騎馬軍団の戦いといわれているが、武田家の文書には武田も鉄砲を使っていたとあり、鉄砲対鉄砲の戦いでもあった。 両軍の鉄砲の差は、どこにあったか。 愛知県新城の長篠の戦いの合戦場から、信長軍の鉄砲玉が出土する。 当時貴重だった鉛が使われていて、平尾良光帝京大教授は、その化学分析から4000km離れたタイの鉱山の鉛と成分が一致すると言う。 この鉛の鉄砲玉が、信長躍進の鍵となった。 鉛は、カブラルの命令で、布教を後押しするため日本に運ばれた。 カブラルは信長に、「天下統一したければ、キリスト教の布教を支援せよ」と伝えていた(ペドロ・コレイア リスボン大学歴史センター教授)。

 日本への軍事物資は、ポルトガルの交易船で運ばれた。 2014年、オマーンでのポルトガルの沈没船調査では、大量の鉄砲玉と銃が発見されている。 ヨーロッパ製の鉄砲が、戦国武将の懐に入り込んでいたのだ。

信長、宣教師と手を握って、仏教勢力を倒す2020/07/14 06:56

 世界の覇権を巡る、スペインを代表とするキリスト教国と、イスラム教のオスマン帝国との争いは、1571年のレパントの海戦でのキリスト教勢力の勝利で決着した。 スペインは、さらに全世界を勢力下に収めようと、インドのゴアなどを軍事力で占領、改宗させるのに拷問も使った。 日本でも、織田信長とタッグを組んで、それを進めようとしていた。 鍵となる最大の障壁が、仏教勢力だった。 その中心が大坂の石山本願寺(住職顕如)で、各地の大名と信長包囲網をつくり、1570(元亀元)年~80(天正8)年の十年間の戦いを続けた。

 日本布教長カブラルは、信長を改宗させることを目指す。 改宗によって、心を支配することで、ヨーロッパ型の思想や社会を広めようとした(コレイア リスボン大学教授)。 信長は改宗しなかったが、一族や家臣の改宗は許した。 宣教師の報告書にある、秀吉の信長への報告、「宣教師は征服計画を持っている」。 信長は、それを知りながら、仏教勢力を倒すための、軍事物資を得るため、リスクに目をつむって、宣教師と手を握った。

 スペイン、バルセロナ近郊の聖イグナシオ洞窟教会に、聖人として高山右近の絵が掲げられている。 高山右近は、石山本願寺に近い摂津の領主だった。 宣教師は切り札として、1578(天正8)年、高槻城で高山右近と接触、信長に合力するよう右近を説得する。 信長軍に1万人のキリシタン援軍が加わり、ついに石山本願寺を破る。

スペインの世界制覇に日本軍事力を利用する意図2020/07/15 06:38

 戦国日本は、絶え間なく軍事力を究め、軍事革命ともいうべき変化を起こしていた。 鉄砲国産化による独自の技術革新がみられる。 田中眞奈子昭和女子大学准教授は、国産のスタンダード国友の鉄砲(火縄銃)と、海外産の鉄砲の銃身の材質を比較し、国友の方が均等で、銃身の強度が安定しており、それは鍛造の技法に秘密があるとした。

 信長の直轄地、堺に、鉄砲製造に関する2万点の古文書がある。 大量生産のために、独自のイノベーションがあり、銃身、銃床、火蓋と、パーツごとの職人がいて、分業で生産が進められていた。 30万丁、日本は世界一の銃大国になっていた。

 アレッサンドロ・バリヤーノ宣教師は、この日本の軍事力を、スペインの世界戦略に組み込もうとしていた。 安土城の青瓦と同じ青瓦が、城下の神学校(セミナリオ)でも許されていたほど、信長との深い関係があった。 スペインの日本征服計画を加速させる出来事が起きる。 スペインの征服王、フェリペ2世が、ポルトガルを併合して、世界地図を塗り替えた。 130隻の軍艦を擁するスペインの無敵艦隊は、ポルトガルの植民地をつぎつぎに呑み込み、フェリペ2世は「アジア征服に尽力せよ」と命令、戦国日本を揺るがす。 スペイン、セビリアのインディアヌス文書館の史料は、最大の目標はアジア最大の国土と人口を持つ中国(明)の征服であり、その鍵は日本の軍事力で中国征服が可能になると分析していた。(セビリア大学フアン・ヒル名誉教授)

 だが、信長と宣教師の蜜月は、終わりに近づいていた。 信長は「われ神にならん」と、天下統一を目前に自信を深め、自らこの世の支配者だと宣言した。 宣教師は、信長は意のままにならないと、新たな計画を立てる。 長崎をキリシタン大名から譲り受けて、支配下にし、1580(天正8)年、大砲を九州に持ち込み、中国征服のプラットホームにする。 九州中には10万人のキリシタンがいて、大きな勢力となっており、信長の脅威であった。 宣教師グネッキ・オルガンティーノは、「われらは日本人の心を盗みに来た、悪魔の手から霊魂を救うため」と。

 両者の関係は、突然の事件で、断ち切られる。 1582(天正10)年、本能寺の変だ。 宣教師の記録には、「信長は襲撃を察知できていなかった。薙刀で戦ったが、銃弾を受けた」とある。 信長の野望は砕け散ったが、宣教師の計画は止まらない。