柳亭市馬の「青菜」中2020/07/21 07:09

 驚いたね、あんまり暑いから、怠けているところだった。 植木屋さん、ご精が出ますねって、言われちゃった。 訳を聞けば、やらぬ手はない。 旦那は、絹張りの団扇、鷹揚に使って…。 早く帰って、やろう。

 おっかあ、今、帰ったよ。 お帰んなさい。 隣の婆さん、ウチの前まで、水撒いてくれてるぞ、お前が撒きゃあいいじゃないか。 忙しいんだよ。 座ってるんじゃないか。 煙草、喫ってるんだ。 煙草が、仕事か。 どうでもいいから、遠慮しないで上がんな。 自分のウチで、遠慮するか。

 飯にするかい、それとも湯に行ってくるかい。 腹減ったから、湯より先に飯にする。 尾頭付きだよ。 鰯の塩焼きじゃないか。 鰯は、頭のところに滋養がある、カルシウムが入っているんだ、犬を見てごらん、頭食ってるから元気なんだ。 犬と亭主を一緒にするのか。 違うよ、いい犬なら、高く売れるからね。

 悪い女房を持つと、六十年の不作だというけれど、生涯の不作だ。 お前と所帯持ったのは、間に入ったのが鈴木の旦那だったからだ。 見合いしろって言われた。 歌舞伎座は切符が高い、映画館は暗い、動物園はどうだって。 変な所で見合いさせると思ったが、こっちは嬉しいから、二時にカバの檻の前ってのを、朝一番からカバの檻の前で待ってた。 ずっとカバを見てて、二時なんなんになって、白熊の山の所から、鈴木の旦那がお前の手を引いて出てきた。 世の中に、こんないい女はいないと思った。 カバの次が、お前だ。 お前さんだって、婚礼の時、袴が膝っ小僧の下までしかなかった。 しようがないよ、大家さんのお坊ちゃんの借りたんだから。