喬太郎の「錦木検校」前半2013/07/03 06:32

 人間には階級がある、士農工商、大大名の酒井雅楽頭、文武両道に秀で、俳 句も詠めば、洒落の一つも言う。 名馬に「三味線」と名付けた。 雅楽が乗 るからで、ドウ(胴)も、駒もある。 家臣が乗ったら、どうなるか? 撥(ば ち)が当たる。

 だが、どうも三番目の男の子、格三郎と合わない、顔を見ても気鬱になると、 下屋敷に下げた。 腹に溜まるものがあって(こういうのではないと喬太郎、 自分の大きな腹をなでる)家臣同様の扱い、付いて行った中村吉兵衛が夫婦で 内職などして、苦しい暮しを支えている。 格三郎は、町へ出かけて見世物を 見たり、樽を並べた飲屋に入ったりし、本を買ってたくさん読む。 目が疲れ る、肩が凝る。 中村吉兵衛は、いつか日の当る所に出して差し上げたいと、 按摩を呼ぶ。 名を聞けば、錦木、名の割にみすぼらしいな。 生れついての 盲、父親がせめて心には錦をと名付けた、名前負けで。 勘弁してくれ、父の 心も知らず…。

 この錦木、療治は上手いし、話が面白い。 格三郎が寄席場に行ったことが ないと聞けば、噺家という人間の屑(心が痛む、と喬太郎)が、小咄をする、 「向うの空地に囲いが出来たよ」「へぇーー」。 面白い、と、いい客。 だい ぶ楽になった、毎晩来てくれとなって、やがて十年、二十年来の友人のように なる。

 伺ってみたいことがある、と錦木、こちらは酒井様の下屋敷、あなたはお身 内ですか、ご家中ですか。 家臣だ。 ご家中で、お大名になれることはあり ますか。 泰平の世だ、そんなことはない。 じゃあ、偉い学者も嘘をつく、 手前は平の座頭、師匠は勾当、その師の検校の講義を聴く機会があり、骨組の 話を聴いた。 万々に一人、大名や横綱になる骨組の人がいる。 あなた様が、 そのお骨組。 世辞でも嬉しい。 お世辞ではない、確かに万々に一つのお骨 組。 では、儂がもし大名になったら、お前を検校にしてやろう。