柳家喬太郎の「そば清」 ― 2018/12/06 07:23
落語研究会は権威があるので、いつも緊張する。 今日は、わさび、馬るこ の後で、ゆるい研究会、何の緊張もない。 飲み会の席が好き、飲む方は二、 三軒はしごして、締めはラーメンだよ、となる。 で、取りあえずビール! 土 地土地のラーメンがあり、豚骨系が多い。 好きなのは、昔ながらの東京ラー メン。 豚の背脂が大流行り、家(いえ)系ラーメン、脂ぎっている。 柳家 も家(いえ)系だが、脂抜いてる。 わさびとだとあっさり、馬ること一緒に いると脂ぎっている。 そこに入ってこないのは、菊之丞、花緑。
とある地方のショッピングセンターにあるフードコート、学食のようなのが 好き、東京ラーメンの写真があった。 これは食わなかったんですが、ソバ、 うどんと同じコーナーで、葱、ウズラの卵、チャーシューに、メンマがのって る、「おしゃれソバ」というのを、芸人だから、食べました。 おつゆは濃いめ、 山菜、問題のチャーシュー、意外と合う、メンマ、これが合わない。 この話 をネタにしまして、その夜に演った。 翌日から「おしゃれソバ」の売り上げ が伸びたそうで。
おいしゅうございました、お代はここに、「どーも」。 あの人、十枚食っ たよ。 近所の若い者で、賭けをしようよ。 明日から、二十枚、一分で。(ち ょっと待って、収録なんだよ。) 二十枚、二分で。 二十枚食えなかったら、 二分もらおう。(よくできました。少し緊張しろよ(笑)。)
あなた、昨日十枚たいらげましたね。 おそばは大好物で、そばもつゆも口 に合う、でも十枚だと、家に帰って苦しんでる。 賭けをしませんか。 モリ を、カケに? 二十枚、二分で。 (さっき一分って、言いましたよ。それで 初めから言い直した。新作に変えるか。) じゃあ、二分にしましょう(拍手)。 (憐みの拍手だ。会場の雰囲気が、これから何回間違えるかになった。) 負 ける勝負をするわけありませんよ、えっ、親方、もう茹でてるの。 二分です ね、ここに置きます。 お笑いになりませんように、ズル、ズル。 よく思い 付きますな、二十枚なんて食べられるわけがない。 ズル、ズル、ズルーーッ。 十七、十八、十九、いっちゃうんじゃないか。 親方、あとは茹でないで……。 二十、食べてしまいました、「どーも」。
三十枚、一両ですか、昨日は二十枚で八転九倒、えっ、親方、もう茹でてる の。 一両取られるとは、思ってませんでしたよ。 わかった、わかった、ズ ル、ズル、ズルーーッ、ズルーーッ、ズルーーッ。 早いよ、今日は。 二十 五、二十六、二十七、いっちゃうんじゃない。 親方、あとは茹でないで……。 三十、食べてしまいました、「どーも」。
そっちのあなた、何笑ってんの。 あの人と本当に勝負してんのかい、そば の清兵衛さん、そば清、そばの賭けで家を三軒建てた。 いつも四十枚までは 平気でやってる。 じゃあ、明日。
あなた、そば清さんですって。 見つかりましたか。 五十枚で二両。 用 があったんで、失礼。 清兵衛さん、仕事で信州に行き、隠れた名産を探して、 獣道に入った。 草むらがガサガサ、ウワバミだ! オロチ、大蛇。 猟師が 鉄砲でウワバミを狙っている。 引き金を引くより一瞬早く、ウワバミが猟師 を呑み込んだ。 おナカがふくらんだかと思うと、池の端で赤い草をペロペロ となめた。 すると、ふくらんでいたおナカが元に戻った。 いい薬だ、あの 草だな、いいものを見つけたぞ。
五十枚で二両。 ズル、ズッ、ズッ、ズッ、ズッ…(無言)。 三十一、三 十二……、四十、四十一……、四十五、四十六。 清兵衛さん、大丈夫かい。 (上を向いて、揺する) 揺すぶっても、茶筒じゃないんだから。 すみませ ん、下向くと出ちゃう。 (上を向いて、頭の上から、そばを口に入れ、顎を 手で動かす) あとは? 二枚。 外の縁側に少し出たい。 重くて、立ち 上がれないじゃないか。 みんなで、座布団ごと押してやれ、エッサエッサ。 後を閉めて下さい。 そばの清兵衛、負けるわけにいかない。 これさえあれ ば、ウワバミの薬を、ペチャペチャ。
清兵衛さん、どうした、どうしたい。 よいしょ(と、開ける)。 妙なも のがある、そばが羽織着て、座ってやがら。
古今亭菊之丞「片棒」のマクラ ― 2018/12/07 07:09
菊之丞、紫色の羽織に、空色の縦筋の着物。 頼まれて落語会のプロデュー スをすることがある。 静岡県のホール、予算がたっぷりあるというので、小 三治師匠に聞いてみた。 一年前から決まっているという、マネージャーがそ うは言わないけれど、ちゃんちゃらおかしいという感じ。 さん喬、権太楼、 二人とも空いてた。 「行くよ」と。 800人のホールで、フタを開けたら350 人だった。 さん喬、権太楼、帰りませんね、沢田研二と違う。 9千人の会 場で7千人、寄席に2千人来たらどうなる、その有難みを知ってる。 池袋演 芸場、お客様と1対1ということがあった。 今の前座は、そういう経験はな い、10人ぐらいはいる。 1時開演で、1時になっても客がいない、楽屋には 師匠が7人。 2人来た、幕を開けたが誰もいない、消防点検の人だった。
寄席では「三ボウ」、どろぼう、つんぼう、けちんぼう、の悪口を言ってもい い。 もっとも、お身内やご親類にいらっしゃったら、お詫びをしておきます。 けちんぼうのことを、赤螺屋(あかにしや)とか、六日知らずという。 赤螺 というのは、アカニシ貝、拳固を握ったような形で、なかなか殻を開かない。 六日知らずは、一日、二日と五日まで指を折るが、六日目の指を開かない。
貞や、貞、釘を打つなら、隣から金槌を借りて来い。 何、貸してくれない、 しみったれたことを、家のを出して使いなさい。 扇子十年という、半分開い て五年使い、傷んだら、あとの半分を五年使う。 いいや孫の代まで使う方法 がある、首の方を振ればいい。 何でも貰う。 おならを、差し上げましょう。 ブッと一発。 つかんで行って、畑でかける。 ただの風よりまし。
一年、ご飯のおかずなし。 向かいが鰻屋で、今日は向かい風。 ご飯をよ そう、今日は美味しいね。 月末、鰻屋の使いが、これをと持って来た。 一、 一円五十銭也、鰻の嗅ぎ代。 お宅で嗅ぐから、タレの一度付けが、二度付け になった。 嗅いじゃったものは、仕方がない。 負けてくれ。 駄目。 細 かい金だ、耳だけ出しな、音だけ聞いて帰んな。
東京は見栄っぱり、割り切っているのが、大阪、名古屋。 東京は「〆てい くら」、大阪は「割り勘でいくら」、名古屋は「払ってくれた人に何とお礼を言 おうか考える」。 これを名古屋でやったら、一番前の人が、「そんなこと、当 たり前だニャアモ」。
古今亭菊之丞「片棒」の本篇 ― 2018/12/08 07:17
赤螺屋吝嗇兵衛(けちべえ)さんが聞く。 番頭さん、この身代をどの倅に 継がせたら、繁盛すると思うかね。 金、銀、鉄、三人の息子さんを、お試し になったらいかがです、ご当家に一大事が起きた時の、お金の使い方を聞いて みたら…。 そうか、私が死んだ時に、弔いをどう出すか、聞いてみよう。 倅 を呼んでくれないか、一人っつだよ。
金。 お父っつあんは、お年も万々歳だから、盛大に出したい。 通夜も二 晩出します、お寺は大きな増上寺か本願寺。 それ相応の料理屋で、お膳が並 ぶ、酒は土瓶に赤い観世縒(より)を付けて、ご婦人にはお土産をお持ち帰り 頂く、黒に金、中が赤の、本塗りの漆の重箱を誂えて、丹後縮緬のフルシキに 包む。 ご遠方の方にはお車代を、今日日、二円、袋に黒一本筋、赤螺屋とし て、喜んでお持ち帰りいただけるでしょう。 吝嗇兵衛さん、私が行きたいよ、 いったい幾らかかるんだ。 一人百円はかかる、三千五百人ほど。 はい、分 かりました、あっち行け、馬鹿。 お前が生きている内は、死なないよ、動悸 がしてきた。
銀か、どうした。 お父っつあん、陽気にやってよ、わーーーッと。 通夜 は、一晩でいい。 破天荒、未曾有、色っぽい弔いをやりましょう。 紅白の 幕を張り、鳶頭連中の木遣りの先導、ヨーーーエーーー、手古舞が出る、新橋、 葭町、柳橋の芸者衆、左手に提灯、右手に金棒を持って、シャンコン、シャン コンと練り歩く。 次に山車が出る、上にはお父っつあんの人形、手にソロバ ン、いかにも因業な、こんな顔(と、やって見せ)、神田囃子が屋台の打ち込み、 テンテン、スケテンテン、チヒャーーリ、ピーヒャラ、トントン、人形が仕掛 けで動く。 曲り角で、調子が変わる。 オヒャーリ、トロトロ、ピィー、ピ ィーヒャラ、テンテン。 神輿を出そう、お父っつあんのお骨が入っているの で、隣町の連中に取られないようにする。 囃子が早くなって、ワッソー、ワ ッソー、テンツク、テレツク、テンテン。 いつまでやってるんだ、うるさい よ。 花火屋が花火を上げて、位牌の落下傘が降って来る。 一同「バンサー イ」。
鉄か、こっちにお入り。 首ヘコヘコして、ニワトリか。 仕方がありませ んから、弔いを出します。 通知を出す、出棺の時間を朝十時と知らせておい て、実際には八時に出棺。 残念、申し訳ないと言えば、皆さん、お帰りにな る。 酒も、料理も出さない。 棺桶も菜漬の樽にする、親コーコー、臭い物 には蓋。 棺桶に詰めるもの、売ってるよ。 新聞紙でご辛抱願います、蓋は します? 担ぎ手は、人足を雇うのだろう? お父っつあんのお言葉とも 思えません、私が担いで、もう一方は人足を雇う。 そんな無駄なことを…、 お父っつあんが担いでやる。
柳家花緑の「柳田格之進」前半 ― 2018/12/09 07:50
柳家花緑、本日トリを取りますと始め、テレビで発達障害の番組に出たが、 落語家なのに私は識字障害だと明かす。 文字の読み書きの学習に困難がある、 脳半分が関係しているらしい。 秘伝を書けない、口伝はない、落語のノート は取りましたが…。 よかったなあ、どこでどうなるかわからない、識字障害 だと四年前に知った。 自信を回復した、人生わからない。 以前、(落語の) 「平林」をやった、自分のプロフィールみたいな話、私がやってよかった。 う まくやってない状態で、何かいいことがある。 与太郎も、知らない内に、福 を引き寄せているところがある。
江州彦根藩の家臣柳田格之進、正直真面目なのを煙たがれ、上役の讒言でお 役御免となり、浅草阿部川町の長屋で、娘のお絹と貧乏暮しをしている。 気 晴らしに出かけた材木町の碁会所で、心が前向きになる。 相手があるからよ い、浅草馬道の質屋萬屋源兵衛と互いに気が合う。 末永く、相手をしたい、 家にいらっしゃいませんか、となった。
立派なお宅、十畳の離れで、碁を打つ。 柳田様、一献差し上げたい。 そ れは困る、帰る。 何と立派なお方だ。 行くんじゃなかった、気が弱ってい るから、呼ばれると、つい出かけてしまう。 萬屋から、米俵、沢庵、梅干が 届く。 そこまでして下さるか、源兵衛殿の優しさだ、生涯、友でいたい。
八月十五日、月見の晩、お嬢様もと誘われたが、着て行く着物がなく、柳田 一人で行く。 月が白の碁石に見える。 離れで碁を打つことになる。 一番 勝って、一番負ける。
先ほどの五十両、いかがしますか。 小梅の水戸様からの五十両でございま す。 離れにあるだろう。 ございません、もう探す所がないんでございます。 碁を打っていらっしゃる時、お渡しして、旦那様は膝の上にお乗せになりまし た。 ことによると、それが転がって、柳田様がお持ちになった……。 番頭、 そんなことをする人じゃない、何を言うか、馬鹿なことを言うな。 たった一 人の友だ、立派な人だ。 思わず知らず、お持ちになるということもあり、つ い出来心ということもあります。 それなら、それでよい、差し上げるんだ、 私の小遣いに付けといてくれ。 それでいいだろ、番頭。
翌朝。 ごめん下さい。 萬屋のご支配、徳兵衛殿か。 昨夜、碁をお打ち になりました。 あの折、旦那に渡した五十両が無くなりました。 もしや柳 田様がご存知ではないかと思って、伺いました。 煙草入と勘違いしたとか。 これからお上に届けますので、お尋ねがあるかも知れません、ご容赦下さい。 奉行に届けるのか。 その五十両、わしが出そう、そこに居合わせたのが身の 不運である。 明日の昼に取りに来てくれ。
一通の手紙を認める。 絹、これを番町の叔母さんの所へ届けてもらいたい、 そして一晩、泊めてもらえ。 絹から父上にお願いでございます、腹をお召し になることはおやめください。 ご主君、柳田の家名に傷がつく。 父上、絹 と親子の縁をお切り下さい、私が吉原へ出向き五十両の金を作ります。 萬屋 源兵衛と番頭徳兵衛、両名を斬って、武士道をお立て下さい。
長屋の女衒が、吉原の半蔵松葉に世話して、あっという間に五十両。 絹、 許してくれ。 友が出来たと思い、浮足立っておった、許してくれ。
柳家花緑の「柳田格之進」後半 ― 2018/12/10 07:15
徳兵衛、約束の五十金だ、持って行きなさい。 断っておくが、脇から都合 した金だ。 もし他から五十両出たら、どうする。 お詫びの印に、こんな首 でよかったら、主・源兵衛の首と一緒に差し上げます。
この薄馬鹿野郎、私がいいと言ったじゃないか。 今すぐ、返して来い。 徳 兵衛が柳田の長屋へ行くと、もう釘付けで、引き移っていた。 ああ、生涯の 友を無くしてしまった。
十二月二十八日、萬屋の大掃除、二番番頭の吉之助が、貞吉、離れを掃除し よう。 額をきれいにしたらどうだろう、ほこり富士だ。 裏で、ガタッ、お 金ですぞ。 旦那様。 五十両か、アッ、十五夜の晩の五十両だ。 はばかり に立った、あの時、額の裏に挟んだんだ。 忘れてしまったんだ。
柳田様を探すんだ。 もしお金が出たらどうすると言われて、こんな首でよ ければ、一つでは寂しいでしょうから、旦那の首もと申しました。 仕方がな い。 大掃除は止めだ、みんなで柳田様を見つけ出せ。 見つけたら五両もら えるというんで、店中が活気づく。
一陽来復、あらたまの春。 番頭の徳兵衛が鳶頭を連れて年始回り、湯島の 切通しにかかった。 あんぽつの駕籠(竹製で左右に畳表を垂らした町駕籠) の横に侍が立つ、坂なので降りたのだろう、立派なお武家だ。 徳兵衛殿では ござらぬか、柳田格之進だ、ご無沙汰しておるが、皆お達者か。 おかげで江 戸留守居役となり、三百石頂いておる。 良い所であったな、一献酌み交わそ う、湯島天神の境内で。 鳶頭、柳田様だ、店に伝えてくれ。 すぐ伝えるよ、 立派な葬式を出すから。 付いて来なさい。 柳田様にお話があります。 そ れは言ってはならぬ、目出たいのだ、春である。 五十両の金が、出たんでご ざいます。 何と! 今日は吉日だ。 その折、その方と交わした約束があった、 忘れてはおるまいな。 明日の昼頃、萬屋宅へ伺う。 風呂に入っておけ、首 を洗っておけ。
源兵衛殿、長々ご無沙汰して申し訳なかった。 お手をお上げ下さい。 旦 那様は、あの時、行くなと申したのに、私の一存で、柳田様の所に参ったので ございます。 私だけを、お斬り下さい。 番頭徳兵衛の命だけはお助け下さ い、徳兵衛には老いた母がおりまして。 私だけを、お斬り下さい。 黙って くれ、今さらそのようなことを申して何とする。 あの五十両、娘絹が身を売 ってこしらえた金だ。 わが殿の厚意で請け出して頂いたが、以前と別人のよ うであって、飯を食う時以外、横になっていなくてはならぬ。 両名を斬らね ば、娘絹に対して申し訳が立たない。
えーい、という掛け声とともに、床の間の碁盤が真っ二つ。 両名を斬らん としたが、主従の情を見て、柳田の心が揺らいだ。 両名を助けてつかわす。
二番番頭の吉之助が、柳田の屋敷に使いに通う。 そしてお嬢さんの絹にい ろいろと面白い話をする内に、氷のようなお嬢さんの心がほどけた。 この方 とお会いするのが嬉しい、吉之助もお嬢さんとお目にかかるのが楽しいとなっ て、やがて二人は夫婦(めおと)となる。 徳兵衛は、萬屋源兵衛から暖簾分 けしてもらい、吉之助が番頭になった。
最近のコメント