柳家権太楼の「短命」前半 ― 2019/08/03 07:11
権太楼は、白い羽織に、濃いグレーの着物。 年取ると一年が短くなった、 ついこないだマッカーサーが来たのに。 1月の行事、何かありましたか。 2 月はバレンタインデー、あんな風習は私の学生の頃にはなかった、あったかも 知れないがチョコを貰ったことはない、チョコは駐留軍から貰う物。 日本に は四季がある。 白夜が見たくて、ロマンチックじゃあないが、ノルウェーに 行った、アイスランドのレイキャビックに行った。 ただの昼間なんですよ。 一人昼間から酒飲んで、喜ぶ。 昼間から酒飲んでる人なら、上野の公園に沢 山いる。 あの人たちは、オーロラも見ているかもしれない。 炎天下、池袋 の演芸場の近くにトラヤ、帽子屋があって、ストローハットを買った。 2680 円、値段を切って、と言ったら、じゃあ2000円でいいよ、と。 2000円? 1000 円でいい。 帽子を買うならトラヤ!
いい女ですね、あれ。 指、差すんじゃない。 あれ、あれ。 死んだ左官 の源次のかみさんだ。 いい女だねえ、後家なのか。 俺も、早くカカアを後 家にしたい。 馬鹿。 隠居さんに聞きたい、弔いに行って、何かいうでしょ、 いやみ。 悔やみだ。 俺、やるたんびに、笑われるんだ。 「このたびは」。 いいじゃないか。 「ごっそうさん」、山のように饅頭があったから。 泣いて いた人まで、吹き出して、しくじった。 次は、「このたびは」「もう沢山です」 とやった。 饅頭はあったけれど、腹いっぱいだったんで。 みんな笑って、 陽気なお弔いになった。 教えてやろう、承りますれば、驚き入りました、ぐ らい言わなきぁあいけないな。 うけうけ、たまたま…、驚いちゃった! 下 っ調子にやらなきゃだめだ。
どこの弔いなんだ? 伊勢屋の旦那が、また死んだ、三度目だ。 何だ、そ の三度目ってのは…。 大旦那が七年前に亡くなり、おかみさんと娘さんが残 った。 この娘さんが、いーい女で、今小町と言われていたんだが、来る縁談、 来る縁談みんな蹴った。 迎えた養子が、いい野郎で、今業平の渾名があって、 今小町といい夫婦が出来た。 その暮に安心したのか、おかみさんがコロッと 逝っちゃった。 二人の仲がより良くなって、どこへ行くのも二人で一緒、私 たち出入りの者も喜んでいたんだが、その内に亭主野郎、骨と皮になって、死 にました。 二度目は、色の真っ黒な、丈夫一筋の男が来た。 二年もしない 内に、キューーッと痩せて、どす黒くなってね。 見舞いに行こうと思ってい るうちに、死んだ。 三度目が今朝、コロッと逝った。 みんな、いい旦那だ った。 悪いことは何もない、どういう訳で死ぬのか、わからない。 人さま ざま、人生いろいろだが、可哀そうだ。 娘さんの齢は、いくつだ? 五年前 は…。 今だよ。 三十三。 女の大厄だ。 いーい女なんだろう、そこだよ。 (着物の前や下を覗く。) 探したって駄目だ。 短命だな。
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