Stay Homeに時代小説<等々力短信 第1131号 2020(令和2).5.25.>2020/05/25 07:05

 新型コロナの引き籠りに、積ん読だった乙川優三郎さんの時代小説『喜知次』 (徳間書店)を読んだ。 中藩十二万石は、日向の延岡から北350里(1400 キロ)というから東北地方、藤沢周平の海坂藩の近くか。 藩主淡路守政泰の 嗣子政勝は、正室でなく側室の子で、藩政の実権を握るが腐敗無策の佐分利派 と、改革を目指す織戸派との間で、生母を味方につけようとする権力闘争があ る。 江戸屋敷の火災と、渡良瀬川改修普請の国役のため、藩財政は火の車、 凶作や水害が重なると、さらに厳しい事態となる。

 物語は藩校知明館に通う三人の少年の成長を追う。 五百石取の物頭、祐筆 頭日野弥左衛門の子・小太郎、郡奉行牛尾邦之助の次男・台助、郡奉行の下役 郡方鈴木瀬兵衛の子・猪平(いのへい)、身分は違うが仲が良い。 父が江戸詰 の日野家に、小太郎の半分六歳の花哉(かや)が妹としてもらわれて来る。 小 太郎は嬉しくて、つい「花哉はまるで喜知次のようだな」と、口を滑らせる。  くるりとした大きな目と赤い頬が、成魚はアカジとも呼ばれる、土地ではあり ふれた魚に似ていたからだ。

 領内で一揆が起き、鎮圧に向かった鈴木瀬兵衛が命を落とす。 藩は首謀者 らを断罪し、双方に死者を出すことで、一揆を鎮静した。 猪平は遺知の半分 を継ぎ、組屋敷を出る過酷な扱いを受ける。 だが、織戸派の間諜だった瀬兵 衛は打毀しで死んだのではなく、背後から味方に斬られたと判る。 織戸派が 一揆の長引くのを恐れて、筆頭家老罷免の上意を取り付けようと江戸へ密使を 送ったのが、佐分利派に洩れたのだ。

小太郎十六歳、農事を改め歳入を増やす藩政改革を考えるようになっていた。  父は小太郎元服の烏帽子親に佐分利家老の親族を頼む。 花哉は十歳、父の勧 めで村井貞子女史の私塾で国学を学び、さりげないところで育ちの良さを感じ させる美しい娘になり、自然と兄妹の情愛が生まれていた。 元服して弥平次 となった小太郎は、藩政を思って祐筆の道でなく郡方を志望する。 佐分利・ 織戸両派の対立は激化し、暗殺の応酬となった。 台助の父牛尾邦之助(織戸 派)が暗殺され、猪平の父を斬ったのと同じ刺客だと判明する。 父・弥左衛 門は、両派の和解に動いていたらしく、両派の駆け引きが殺し合いから交渉の 場に移る。 執政を目指す弥平次は、二十一歳で郡奉行になった。

 御政道不行届で、延岡五万石に国替えとなる。 弥平次が妻にと求めたのを 断わっていた花哉は、あくまで村井塾に残ると言い張る。 入部して、弥平次 は三十二歳で勘定奉行に昇るが、弥左衛門が急逝、妻を娶り子を二人儲けた。  死期の迫った母初が、弥平次は養子で、花哉は父が江戸詰で身の回りの世話を した女性に産ませた実子だと、打ち明ける。 私は山本周五郎の『小説 日本婦 道記』「墨丸」を読み返した。

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