心の中で「ブラボー!」<等々力短信 第1137号 2020(令和2).11.25.>2020/11/25 07:00

 天満敦子・岡田博美デュオ・リサイタルを、11月13日紀尾井ホールで聴くチャンスに恵まれた。 紀尾井ホールは初めて、木をふんだんに使い、素晴しいシャンデリアが輝く、実に気持のいいホールだった。 客席前方のステージを、1階と2階のバルコニー席が取り囲み、ステージと客席の一体感を生んでいる。 1階バルコニー席の二列目、ステージ間近の最上の席で、前列に2020オリンピックを束ねる元首相がいた。

 普段クラシックと無縁の私が、天満敦子さんのヴァイオリンと出合ったのは、今回お招き頂いた、現・藤原QOL研究所長の藤原一枝先生が、年一度主催されていた「ホモ・ルーデンスの会」でだった。 お茶の水のカザルス・ホールで何度か聴いて、ヴァイオリンて、なんと良い音がするものかと思った。 2017年には、広尾のオマーン大使館や浜離宮の朝日ホールでも聴いている。 天満敦子さんは、8月の短信に書いた窪島誠一郎さんの無言館でも毎年、コンサートをなさっていて、今年の22回目は9月8日だったが、コロナの関係で200人入るところを7~80人に抑えなければならなかったそうだ。 11月13日の紀尾井ホールも、一向に減らない感染者数や厳しい制約、入場規制などで、初めは市松模様での開催も模索していたそうだが、2階の後ろに若干空席がある程度の満員だった。 天満さんは、紀尾井の舞台はヴァイオリン弾きとしてのエネルギーそのもので、自分の現在の能力を客観的に判断することが出来る最高の場所なので、思い切って実施することにした、世界で一番幸せなヴァイオリン弾きだと言う。

 しょっぱなのクライスラーのベートーベンの主題によるロンディーノから、軽快な繰り返しのところで、たちまち元気をもらって、コロナの鬱々とした気分が吹き飛ぶ。 天満さんがルーマニアで出合い、すべてのコンサートで弾くポルムベスク「望郷のバラード」を始め、どの曲も、心に染み込んでくるような感じがする。 心が洗われるとは、こういうことなのだろう。 私は天満さんが日本の歌曲を弾くのが大好きだ。 「雪の降る街を 雪の降る街を 想い出だけが 通りすぎてゆく 雪の降る街を 遠い国から落ちてくる この想い出を この想い出を いつの日かつつまん 温かき幸せのほほえみ」 歌詞をなぞりながら聴き、涙がこぼれそうになった。 中田喜直作曲、内村直也作詞の、この歌詞が父の故郷、山形県鶴岡でつくられたと聞いていたからだろうか。

 ピアノの岡田博美さんは、ロンドンを中心にヨーロッパで演奏活動をしていて、コロナ禍で英国の自宅に帰れなくなっているそうだ。 アンコールの左手だけの演奏には、盛大な拍手が沸いていた。 デュオ・リサイタル、「ブラボーの声掛けも、心の中で」とアナウンスがあったが、十分、心に染みて「ブラボー!」を叫んだ。

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