「まれびと」の簑笠、そして「力足」2008/11/04 07:14

 この柄傘の「傘」と、折口信夫の「まれびと」が著(き)ている簑笠の「笠」 とを、おなじ「カサ」として、つなげて読んでもいいのではないかと、松浦寿 輝さんは言う。  「国文学の発生(第三稿)」(1927年)に、「まれびと」は簑笠を著て、遠い 国からやってくる、とある。 簑笠は、遠い国から旅をしてやってくる神であ る故の、風雨・潮水を凌ぐための約束事の服装で、つまり時間・距離・道中の 苦労の数々を示し、これを著ることが神格を得る所以だと思われるようになっ た。 普通の人が、簑笠を著たままで他家の中に入るのはタブーとされ、それ を犯すと「祓へ」を課する。 簑笠を著たまま他家の中に入るのは、特定の「お とづれ人」、「まれびと」に限るからである。 簑笠は、顔を隠すための仮面であり、ミステリアスな存在、謎めいた他者・異人の表象でもある。

力足(チカラアシ)。 同じ「国文学の発生(第三稿)」に、「まれびと」は、 呪言を以て「ほかひ」(祝い)をすると共に、土地の精霊に誓言を迫った。 さ らに、家屋によって生ずる禍いを防ぐために、稜威に満ちた「力足」を踏んだ、 とある。 松浦寿輝さんは、「うかれびと」は慶事を司る「ほかひびと」でもあ るという。 「力足」は、相撲の四股のように、足に力を入れてぐっと踏みし めて、土地の精霊を押さえつける動作だ。 それは、うかれ漂い出ようとする ものを、上から押さえつけ、制御する「柄傘」と同じ働きではないか、と推論 するのだ。

 「まれびと」自身が「うかれびと」の系譜に属していながら、「力足」を踏ん で、地霊を抑圧し、共同体に新しい秩序をつくる存在でもある。 前に見た、 大地から流離し、自由な浮いている存在を、上から下に向って、大地につなぎ とめる「柄傘」。 空と土と、上と下と、弁証法的なダイナミズム、〈気〉と〈土〉 の詩学が、折口信夫にはある、と松浦さんは言う。 詩人的な直観で論理を展 開した折口の、逸早い詩人・思想家としての業績である、と。

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