春風亭一之輔の「花見の仇討」前半2020/05/29 06:56

 そういう訳でございまして、こちらは東洋一の落語会で、お客さんがいるよ うないないような、いないようないるような、わけで。 前座の時分、2001 年7月21日が初高座、上野の鈴本演芸場で、午後5時15分に上がったら、お 客さんが二人、向こうと、向こうに座っていた。 その時より少ないから、難 しい。 満員で、笑ってくれればいい、満員でも、笑ってくれないことがある。  客席が目の当りに見える、澄んだ目で見つめている。 その頃、楽屋の噂で、 こちらは世界一笑わない落語会、トップに二ッ目が始めても、お客さんがロビ ーにいて入ってこないと聞いた。 なまじ、いるより、いない方がいいかもし れない。

 今年も花見の季節なのに、見えそうで、見えない、場末のストリップみたい。  春は花、おい八っつあん(と、羽織を脱ぐ)、花見に行かねえか。 国で違う。  オランダだと、おいヨハン、チューリップ見に行かないか。 土地が低いな、 風車が回ってる。 メキシコだと、おいホセ、サボテンの花見に行かないか。  <銭湯で上野の花の噂かな>。 花見に行ったんだってな、どこ行った? 飛 鳥山、大変な人出で、風が強くて、弁当にも酒にも、ジャリジャリ砂が入った。  で、花はどうだった? 花、咲いてたかなあ。 <佃育ちの白魚さえも花に浮 かれて隅田川> 花見の趣向、何かないか? 今までなくて、この先もない、 アッと言って、開いた口がふさがらなくなるような、銭のかからない趣向。 あ るよ、十人揃えて向島へ行く。 それぞれ手前えの木の台に上がり、婆さんに 三味線チャンカチャンカ弾いてもらう、踊りながら着物を脱ぐ、緋縮緬の肌襦 袢も脱いで、フンドシもはずす。 フンドシを枝にかけて、輪っかをつくって 首を通す、三味線を止めて、太鼓をドンで、台を蹴っ飛ばす。 首くくりだ。  親父も、倅も、風に揺れているから、見ている人は、驚くな。 駄目だ。

 熊、何かあるか。 仇討ちはどうだ。 上野の摺鉢山のてっぺんの切り株に、 浪人が腰掛けている。 それと巡礼兄弟、六十六部の四ったりだ。 筋書きは、 こうだ。 深編笠の浪人がぷかりぷかり煙草をやっている、火を借りた巡礼が、 探し求めていた仇と気づく。 ヤァーー珍しや、汝はなんの某やな、何年以前 国許においてわが父を討って立ち退きし大悪人、我等兄弟、仇を討たんと艱難 辛苦いかばかりか、一日千秋の思い、ここで逢うたが盲亀の浮木優曇華の、花 待ち得たる今日只今、いざ尋常に勝負、勝負! 何を、返り討だ! と、浪人は 笠の緒を取る。 真剣、本身を使う、巡礼は仕込み杖だ。 チャンチャンバラ バラになる。 そこへ六十六部が仲裁に入る。 ここは私にお任せを、と笈櫃 (おいびつ)から、三味線、酒や肴を出し、双方目出度い、目出度いと、カッ ポレの総踊りになる。 何だ、花見の趣向か、ワァーーーッて、上野の山は引 っくり返る。 いいね、やる、やる。

 配役だが、俺は言い出したから浪人、金ちゃん、松ちゃんは巡礼兄弟、六さ んは名前もちょうどいいから六十六部。 稽古しよう。 その場の勢い、流れ でやるんじゃ駄目かい。 駄目だよ、松ちゃん、火を借りに来い。 ねえ、火 を貸してよ。 駄目だ、友達じゃないんだから。 友達だろ。 友達は友達だ けど、仇討ちだ。 卒爾ながら、火を一つ、おん貸し下されたく。 ヒツジな がら。 軽いな、力が入ってない。 (力をこめて)卒爾ながら、屁を一つ、 アッごめん、出ちゃった。 臭い、何食ってんだ。 金ちゃん、代われ。 俺 の顏を見て、驚くの、それらしく、アワーーッと驚く。 ヤァーー珍しや、汝 は建具屋の熊公やな…。 悪そうで、怖そうな名前はないのか。 何年以前国 許においてわが父を討って立ち退きし大悪人…。 何年じゃなくて。 三年、 七年、十三年…。 法事じゃないんだから、七年でいい。 われらキヤウダイ、 仇を討たんと艱難辛苦いかばかりか、一日千秋の思い、いざ尋常に勝負、勝負!  卒業生の皆さん! 呼びかけかい。 チャンバラ、刀を抜いたつもりだ。 松 ちゃん、親の仇だ。 アジのタタキ、アジのヒラキか。 六部はどうした? は ばかりだ、早く出て来い。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック