柳亭小痴楽の「佐々木政談」 ― 2024/10/26 07:02
小痴楽、頭はパーマか、教育は大事だと始める。 4歳の息子が、去年から字の読み書きをするようになった。 七夕の短冊に、「ウルトラマンになりたい」。 カタカナとひらがな、高校3年でやる。 自分は16才で入門し、ネタ帳を書かなければならなくなって、ドリルで覚えた。 4歳で、字が読める。 きれいに書けるようになるには、書き順と、姿勢が大事だ、と教える。 ソとン、ツとシ、大学1年でやる。 ンが、うまく書けないので、教えていると、かみさんが、あんたの書き順が、「ソ」なんだよ!
文久年間、南町奉行は佐々木信濃守、偉ぶらず、町を巡って、民の暮らしを見て歩いた。 新橋竹川町で、12、3人の男の子が遊んでいる。 寄れい、寄れい! お奉行ごっこ、二人が後ろ手に縛られている。 後をつけると、河岸っぺりのムシロに二人が座らされ、シーーッと警蹕の声。 材木の上で、12、3歳の男の子、洟をこすって、頬がガビガビになっているガキが、余が佐々木信濃守である、と言う。 伴侍の三蔵に、余と同名だな。 三蔵が止めに行こうとすると、よいよい、と見ている。 二人の侍を、吟味の邪魔だと、竹の棒で追っ払おうとする子供がいる。 少し下がって、見る。 金ちゃん、なぜ勝ちゃんと往来で喧嘩口論をしたのか、申し述べよ。 一つ、二つ、と、つの字が揃っているのに、なぜ十につがないのか、というので、殴りました。 かかる些細なことで、お上を煩わせるとは不届きである、喧嘩口論をするでない、両名の縄をほどいてやれ。 一つから十まで、つの字が揃っておる、だが十つとは言わない。 途中で、盗んだものがいるのだ、わからないか、五つだ。 恐れ入りまして、ございます。 一同、以上だ、立てえ、立ちませえ! 四郎ちゃんの、お奉行、一番うまかったな。 あばよーーッ、ちばよーーッ!
伴侍の三蔵に調べさせると、四郎ちゃんは四郎吉、親は桶屋職人高田屋綱五郎、子供たちの間で酒飲みという評判。 四郎吉は、あたい罪人ばかりだったので、南町奉行でやりたいと言ったという。
御免、許せよ。 佐々木信濃守の家中である。 四郎吉、何歳にあいなる? 何歳は、あいにくなくて…。 歳は、いくつになる。 今年、四十二で。 四郎吉だ。 十二か。 四郎吉と同道し、町役人一同と、南町奉行所に出頭せよ。
お父っつあんは、萎れている。 四郎吉、何をやったんだ。 お奉行ごっこを、田舎侍が二人見ていた。 さっきの人と、もう一人羽織を着た人。 紋は、丸に四ツ目。 佐々木様、お奉行様だ。 お奉行様の目の前で、お奉行ごっこをやったのか。 何もしないよ。 あれかな、金物屋の鉄ちゃんが、竹の棒で追っ払った。 ただではすまない。 皆、首を斬られて、早桶の注文か。
南町奉行所、普通の事件は吟味与力が担当し、重大事件だけが御前吟味といって、お奉行様が登場する。 ズラーーッと、与力、同心が並び、御前吟味だ。 やっぱり、早桶はウチでつくるのか。 正面に、佐々木信濃守が現れる。 家主多平、高田屋綱五郎、四郎吉、町役人一同、揃いおるか。 四郎吉、面を上げい。 顔を上げるんだ。 頭は? あの田舎侍だ。 指を差すな。 見事なお裁きであったが、手習いの師匠にでも習ったのか? お師匠さんには習いません、お師匠さんには内緒にして下さい。 即決か。 畏れ入ることはない、いくつか訊きたいことがある、思っていることを申してみよ。 上から言っているだけでは、お奉行は勤まらない。 同感ではあるが…。 位負けします、同じ所に座らせていただければ、お答えします。 上がれ。 四郎吉、どうかしているよ、止めろ(と、町役人)。
お奉行様、夜になると空に星が出ます。 実は、星は昼間から出ているのに、お天道様が照らしているので、見えないんです。 では、星の数はいくつあるのか? お奉行様は、このお白洲の石の数がおわかりですか、ご自分でわからぬものは訊かないように、気を付けて下さい。 星の数のように、手に届かないものの数は、わかりません。 なるほど。 これを、頓智頓才と申します。 四郎吉、天に昇り、星の数を数えて参れ。 天に昇る道がわかりませんので、道案内をつけていただきたい。 そうか。 お茶の子さいさい、で。
四郎吉に、例のものを、つかわせ。 おっ、饅頭だ。 遠慮なく、食せ。 おっ母さんの買ってくる饅頭は、餡が少ない、この饅頭は重い。 父は何をくれるか? お父っつあんは、いつも叱言ばかりで。 四郎吉、父と母の、どちらが好きか? お奉行様、二つに割った饅頭の、どちらが美味しいとお思いですか。 頓智頓才、屁の河童。 この饅頭、餡が詰まっていて、美味しい。 父と母のどちらが好きかなんて、訊くもんじゃありません、子供がひねくれる、気を付けて下さい、二度目です。
饅頭をのせてきたもの、四角いのに、三方とは? お役人は、一人でも与力。 では、与力の身分は? 四郎吉、懐から達磨の起き上がり小法師を出し、この通り身分の軽いくせに、お上のご威光でピンシャンピンシャンそっくり返っています。 与力の心は? 穴あき銭、天保銭にコヨリを通し、達磨につけて、転ばすと、銭のある方に転ぶ。 言い過ぎ、冗談であろう、一同の者、許してつかわせ。 高田屋綱五郎、四郎吉を十五まで育てて、十五になったら余のもとに寄こせ、近習に取り立てる。 四郎ちゃん末広、小児は四郎吉、紅のごとし。
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