小満ん「悋気の火の玉」の本編2013/07/06 06:25

 ご本妻は、真焼き、真っ黒けに焼く、ウエルダン。 お妾は、しっとりと焼 く、レア。 旦那、頭貸して下さい、白髪を抜いてあげましょう、こないだ銀 座で、今のは親娘よ、って言われたから。 家に帰ると、それを見たご本妻が、 黒いのまで抜いたから、芥子(けし)坊主みたいになった。

 花川戸の堅いお店の旦那、家内が、家内がというのを、ものの付き合いだと 言われて、かの吉原に遊んだ味が忘れられなくなった。 安く楽しめると、身 請けをして、根岸の里にご妾宅を構える。 婆やに、狆(ちん)。 狆を抱くと、 ひっ立つ、産んだんじゃないか。

 どうせ、おくたびれでございましょう、フン。 妾宅に二十日、やがては帰 らなくなる。 祈り殺そうと、昔のご婦人は、藁人形を五寸釘で打ちつける。  それを聞いたお妾さんが、婆や、六寸釘を。 かちーん、かちーん。 七寸釘、 八寸釘、終いには、二尺八寸釘。 お妾がコロッといって、ご本妻もコロッ、 ダブル・プレー、ゲッツー。

大音寺前(台東区竜泉1丁目)で、火の玉同士がぶつかりあって、火花をちら すと、風呂屋でチラッと聞いた。 商売にさわると、お寺のご住持の伯父さん、 谷中三崎(さんさき)木蓮寺の和尚に、有難いお経を読んでもらう。 だが、 まるで受け付けない。 二人とも、こぶだらけ。 和尚が、お前と二人で行こ う、お前がやさしく慰めてくれ、そこでお経を読むから、と。 碁を一番打っ てから、九つ(午前零時)の大音寺前に出かける。

煙草が喫いたいけれど、火道具を忘れた。 ボーーンと、八つの鐘が鳴ると、 根岸の里で、火の玉がポッ。 お妾だ、おい、ここだよ。 頭の上で三べん回 って、ぴたりと止まった。 こちら、谷中三崎の木蓮寺の和尚さんだ。 火が なくて困っていた。 もっとこっちへ、商売人なんだから如才なく、口を利い てくれ。 花川戸のご本宅でも、陰火がポッ。 唸りを上げて、ビューーン、 ものすごい勢い。 もっとこっちへ、煙管に寄って。 スーーッとそれて、私 の火じゃ、うまくないでしょ、フン。

扇遊の「大山詣り」前半2013/07/07 06:52

 「富士詣り」というネタだとよかった、そうはうまくいきません。 世界文 化遺産決定、信仰・芸術の源泉としてということだけれど、今は、レジャー、 チャレンジ。 講中、先達さんに導かれて団体での登山、宿場女郎を買うのが 楽しみという奴もいた。 大山阿夫利神社、勝負事の神様として、博奕打、職 人、鳶の者など、気の荒い連中がお詣りした。

 先達さんが、熊を呼んで、町内の女、子供を守るため、今年は留守番をして くれないかと、説得する。 やだよ、みんなとお山へ行くよ。 お山、遠慮し てくれ、いつもお前さんが行くと、必ず喧嘩になるから。 喧嘩しないよ。 去 年も、そう言っていた。 喧嘩をしたら二分(一分二朱で世帯が持てた)、酒を 飲んで暴れたら坊主にする、という「きめしき」を約束して出かける。 髷(ま げ)は大切なもので、命にかかわるようなことでも、髷を切ることでかなった 時代だ。

 お山は無事終わって、明日は江戸という神奈川で一騒動起こった。 先達さ ん、日記を付けてる場合じゃない、日記もハッカもない。 我慢のならねえこ とがあった、相手は俺と貞の二人だ、湯に入っていたら、熊が俺も入れろと入 ってきた。 歌を歌おうと、下っ腹に力を入れて、一発やっちゃった。 それ が熊の鼻先で、ポンと弾けた。 すると熊が、こんなぬる臭せえ湯には入って いられねえと、貞の頭を桶でポカポカ殴った。 喧嘩したのは悪い、二分出す から、寄ってたかって坊主にするのを許してもらいたい。 まあまあ、酒が覚 めたら、謝らせるから。

 中二階で、熊が酔って寝ている。 カミソリを借りて来て、頭を酒でしめそ う。 うめえな、いい酒でたまんねえや。 何してやんだ、剃るんだ。 寝返 りを打ったから、もう片方もと、ツルツルにした。 裸で寝ているのに蚊帳を かぶせて、ホオズキの化け物のようなのが出来上がった。

 みんなは朝、早立ちし、女中が掃除に来た。 お竹さん、お坊さんが出てき たよ。 肩にウワバミの彫り物がある、昨夜暴れた人だ。 きれいです、さっ ぱりしたでしょう。 お坊さんがいます? あなたが、お坊さん。 髷が自慢 だったのに、喧嘩をしたから仕方がない。 みんなが立って半刻か、江戸まで 通しの駕籠を、三枚で頼んでくれ。 熊は冷酒を三杯ばかしひっかけ、手拭を 米屋かぶりにして、駕籠に乗り込む。 酒手ははずむ、江戸まで通しでやって くれ。 途中、茶屋で休んでいる連中を追い抜いた。

扇遊の「大山詣り」後半2013/07/08 06:28

 先達さんとこのかみさん、山へ行った連中のかみさんをみんな集めてくれ、 話がある。 お山は無事に済んだんだ、藤沢の宿で、だれかが金沢八景を見よ うと言い出した。 舟で横須賀、米ヶ浜の御祖師様(瀧本寺)にも参ろうとい うことになった。 伊豆屋という船宿、天気が良すぎる、南風が吹いていた。  烏帽子島の外に出て、船頭が妙な顔をして、黒い雲が気になるという。 あた り一面真っ暗になって、雨がザーザー、ものすごい風になって、波がドーーー ン。 横波を食らった。 艪が折れて、船頭が海に落ちた。

 気がつくと、浜に打ち上げられていて、お前だけが助かった、あとは海の藻 屑だ、と聞かされた。 これを伝えなくてはと、恥を忍んで帰って来た。 み んなは百年千年待とうが、もう帰って来ないんだよ。 ワーーッ。 お光さん、 泣くんじゃないよ、ほかの子は驚くかもしれないけれど、私は驚かないよ、こ の人は“ほら熊”“千三つ”ってんだよ。 熊さん、いい加減にしておくれよ、 どうしてそういう嘘をつくんだよ。 冗談いっちゃあいけねえ、姐さん、俺は これで一人高野に籠って、みんなの菩提を弔おうと思って、ほら、この通りだ。  と、かぶっていた手拭を取る。

ワーーッ、かみさん連中が一斉に泣き出す。 わたしは、井戸に身を投げて 死にます。 すすめるわけじゃないが、緑の黒髪をぷっつり切って、菩提を弔 うのが夫婦というものじゃあないか、貞女の鑑だ。 私が尼になれば、あの人 は喜ぶだろうか。 喜ぶ、喜ぶ、キャアキャア言って。 若いかみさん一人坊 主にしておけないと、先達さんのかみさんも坊主になったものだから、私も私 もと、残らず貞女の鑑になった。 手前のかみさんだけ、そのままにしておい たってんだから、ひどい奴があるもので。

熊の家で、念仏が聞こえるぞ。 ずいぶん大勢だよ。 熊が先に帰っている ぞ。 途中で追い越して行った三枚で帰ったんだ。 尼さんばかりだ。 あれ、 真ん中に熊公がいて、鼠入らずの前にいるのは、お前のかみさんに似てる。 ア ラーーッ、うちのカカアだ。 残らず坊主にしちまったんだ。

さあ、さあ、亡霊がそこまで、迷って、来ているよ。 浮かんで下さい、亭 主と名のつく者は、もう持ちませんから。

あれ、足があるよ。 あたし、坊主になって、きまりが悪いよ。 やい、な んで俺のカカアを坊主にした。 お前まだ草鞋を脱いでないぞ、怒っちゃいけ ねえ、「きめしき」破ると、二分ッつ取るぞ。 大変だ、先達さん、おたくの姐 さんまで坊主にされちゃいましたよ。 あらあ、きれいなもんだね、青々とし て、まるで冬瓜(とうがん)舟が着いたようだ。 ワッハッハ、いやぁこれは めでたい。 およしよ、カカアがみんな坊主にされて、めでたいことがあるも のか。 いや、めでたい、お山が無事に済んで、帰ってきたら、みなさんお毛 がなかった。

『新・話の泉スペシャル』を聴く2013/07/09 06:33

 6月22日に「『話の泉』物の呼び名クイズ」で書いた『新・話の泉スペシャ ル』、今月6日にも放送があると、教えてくれた方がいる。 聴いてみたら、4 月29日「昭和の日」に放送されたものの再放送で、出演は前に聴いたのと同 じ山藤章二、桂文枝、毒蝮三太夫、嵐山光三郎、松尾貴史で、司会も渡邊あゆ みアナだった。 この番組が、長く続いていて、それが立川談志の肝煎りによ るものだったということもわかった。

 内容は「昭和の日」に因んで、「ヒーローの時代」昭和のヒーローを挙げるこ とから始まった。 松尾が手塚治虫、山藤が立川談志、嵐山が白井義男、文枝 が花菱アチャコ、談志を先に言われた毒蝮が美輪明宏を挙げた。 ヒーローで なくヒロインではないのか、と茶茶が入った。

 昭和6年に出来たという『昭和の子供』の歌が流れたが、このメンバーは知 らないようだった。 渡邊あゆみアナは、昭和の入局、絶滅危惧種だという話 に、一番古いの? と質問。 諸先輩、綺羅星の如く…、いるかどうか、と。

 「昭和の映画館」「昭和の百貨店」を話題にする。 映画館、靴の裏がベタベ タした。 そこから痰壺というものがあった、と。 トイレの臭い。 フィル ムが間に合わない。 映写の光線の中に、煙草の煙が見えた。 満員でドアが 押されていて、入れない。 大人と大人の背中の間から観た。 文枝は母親に 舞台に乗せられ、片岡千恵蔵の顔がデカかったと。 三本立。 途中から観て、 物語がつながった時、嬉しかった。 そういうことだったのか。 推理物、犯 人から観ていて、そんなことをやったのか、と。

 百貨店。 関西では「デバート」と言っていた。 大食堂、洋食、晴れがま しい、お子様ランチ、旗が立っていた。 嵐山、初めてエレベーターに乗った 時、靴を脱いだ、と。 生きた象を売ったことがあった。 売れたのか、贈答 品にしたのだろう、と。 文枝は、デパートの洋酒売り場でアルバイトをしていた。 「イラッシャイ!」。

 「とんち教室」のテーマ音楽と、青木先生(一雄アナ)の声が流れる。 昭 和24(1949)年1月に始まり、石黒敬七、長崎抜天、春風亭柳橋(六代目)、 桂三木助(三代目)、三味線豊吉、西崎緑、大辻司郎、宮尾しげを、玉川一郎な どが出ていた。 【織り込み都々逸】と【物は付け】をやった。  【織り込み都々逸】「あまざけ」の題。 山藤「あなたのかあさん ママとは 違う 座布団出せば 蹴っ飛ばす」。 松尾(平成風に)「アウェーの洗礼 ま たもやピンチ ザッケローニが 蹴っちゃった」。 題「さおとめ」。 松尾「さ んざん気張って お料理したが とうとうあきらめ 目玉焼き」。  【物は付け】ちょっと危ない物は? 松尾「『新・話の泉』の生放送」。 文 枝「携帯を耳にはさんで自転車に乗る女子高生」。

 聴取者からの、投稿川柳。 <一大事単身赴任に妻が来る>、<お忍びで行 った宿からお礼状>、<定年後上下買ったのパジャマだけ>、<もう少しうま く嘘つけ見舞客>。

 次の放送は、NHKラジオ第一7月15日(月)夜10時15分からと、8月11 日(日)夜9時5分からだそうだ。

漫画家ヒサ クニヒコさんの話2013/07/10 06:23

 いささか旧聞だが、6月21日(金)に慶應三高校新聞のOBOG会、ジャー ミネーターの会が、日本外国特派員協会であった。 慶應義塾出身の漫画家・ イラストレーター、恐竜研究家のヒサ クニヒコさんの話を聴いた。 ヒゲを蓄 え、ビヤ樽型の、いかにもヒサさんといった方だった。

 ヒサ クニヒコさんは1944年生れ、66年法学部卒。 同期の方によると普 通部の頃から、せっせと漫画を描いていたそうだ。 「小生意気な漫画」を描 いていたら、文藝春秋が『漫画読本』に8頁とか16頁とかくれた。 72年、 第18回文藝春秋漫画賞受賞。 かつては子供漫画と大人漫画があった。 近 藤日出造、横山隆一、杉浦幸雄、清水崑、加藤芳郎などの、大人漫画の文化が 消えた。 現在、同じものを目指していた人は、いない。 淘汰された契機の 第一はオイルショック、紙がなくなって、出版が減った。 第二は、昭和天皇 のご病気で、バカバカしいもの、面白い漫画が淘汰されたが、自分は面白くな いから生き残った。 第三は、バブルの崩壊、企業のPR誌(お金もよかった) が激減した。 珍しい存在、絶滅危惧種となった。

 本職は漫画、挿絵、イラストだが、絵本、童話、エッセイから、旅行ルポや テレビの紀行番組のレポーター、ラジオのレギュラー出演など、いろいろなこ とをやってきた。 交通公社の雑誌『旅』、広島から東京まで、貨物列車の電気 機関車の運転席に乗った。 でかくて、高い、夜9時に立って、朝汐留に着く。  運転士は2時間ごとに交代して、みな元気だが、こちらは一人、一睡も出来な い。 国鉄の機関誌『R』、北海道で車掌室に乗りっぱなし、マイナス十何度、 後ろしか見えない、運転室は組合が違うから駄目だ、と。 『山と渓谷』誌、 ふだん山に登らない人を、登らせたらという企画で、前穂高岳へ。 山の取材 と、船の取材は、途中下車ができない。 つくづく、山は、写真で見るもんだ、 と思った。 防衛庁(省になる前)、冬の北海道、雪中訓練隊員の苦労を体験、 イグルーの中、寝袋で寝る、暖房はローソク一本。 潜水艦の訓練、水が漏っ たらマズイという想定で、部屋の中で水漏れを止めるのを一緒にやらされた。  ただ、従兵を付けますと、将校の扱いで、ずぶ濡れになったら、風呂に連れて 行かれ、背中を流してくれた。(つづく)