インターネットのオープン性と、関わった人物2019/01/13 07:56

 12月25日の「等々力短信」第1114号に村井純さんの「インターネット文 明論之概略」を紹介し、インターネットが全世界へオープンにする設計コンセ プトで、国境を意識せずにつくられてきたことによって、発達普及してきたこ とを書いた。 そこで一つ、疑問を感じたのは、特許の問題はどうだったのか、 ということだった。 また、村井純さんが挙げた何人かの人名について、くわ しいことを書く紙幅もなかった。

 村井純さんの『インターネットの基礎―情報革命を支えるインフラストラク チャー』(角川学芸出版・角川インターネット講座第1巻)に、ヴィントン・ グレイ・サーフが2012年9月に慶應義塾大学から名誉博士号を贈られたとき の記念講演「インターネットの再発明」が載っている。 ヴィントン・グレイ・ サーフ、通称「ヴィント・サーフ」は、1943年生れ、カリフォルニア大学ロサ ンゼルス校に在籍していた大学院生時代に、ARPANET初期の開発に参加。 博 士号取得後の1972年にスタンフォード大学に移り、ボブ・カーンとともにイ ンターネットの核心となるTCP/IPを設計・開発した。 その後、DARPA(ア メリカ国防高等研究計画局)でインターネットと関連技術の開発を先導、米国 の大手電気通信事業者MC副社長などを経て、2005年よりグーグル副社長兼 チーフ・インターネット・エバンジェリスト。

 ヴィント・サーフは、講演「インターネットの再発明」の冒頭「インターネ ットの設計哲学」の254頁からの「オープンな設計と運用は何をもたらしたか」 で、こう述べている。 「オープン性――オープンであるということは、イン ターネットの設計における最大の特徴で、それは学術的なコミュニティから誕 生したという事実に大きく関係しています。インターネットの設計は、それま での電気通信技術者ではなく、コンピューター科学の研究者によって行われま した。彼らはアカデミックな環境にいたため、研究成果を共有するのは当然だ ったのです。私たち研究者にとって、知識はお互いに売買するものではなく、 交換するものです。私は知っていることをあなたに教えて、あなたは知ってい ることを私に教えてくれる。共有した結果、私たちは両方ともメリットがあり ます。インターネットはそのような意味でとてもオープンでした。」

 「オープンソースもたいへん重要な役割を果たし、いまもたいせつな役割を 担い続けています。人々はお互いのソフトウェアやアイデアから学びました。」

 「オープン性という側面でもうひとつても重要なのは、ボブ・カーンも私(ヴ ィント・サーフ)も意図的に、あえてTCP/IPプロトコルの設計仕様の特許を 申請しなかったことです。私たちは設計を全世界に無償で公開しました。」

「これにはきちんとした理由があります。私たちは非独占的な標準であること が、すべてのコンピューターメーカーが相互接続できるようにするうえで最重 要だと考えたのです。そうするためには、非独占的な設計仕様を、利用条件も 制限もない形で公開することが不可欠でした。しかし当時は、まだ冷戦の真っ ただ中で、私たちは米国国防総省のために働いていたのです。これからの通信 基盤の中核となるプロトコルの設計仕様を、公開してしまうなんてことが、い ったいなぜできたのでしょう?」  その答は、また明日。