インターネット40年の歴史2019/01/15 07:10

 村井純さんの『インターネット新世代』(岩波新書・2010年)の最終章「未 来へ向けて」に、インターネット40年の歴史を振り返ったご自身の記述があ るので、今まで書いてきたことを整理し、補強する意味で、引用しておきたい。

 「インターネットには40年の歴史があります。1969年にアメリカの4つの 大学・研究所をつなぐコンピュータネットワークARPAnetの研究が開始され、 また、同じ時期にベル研究所でUNIXオペレーティングシステムが誕生しまし た。ちょうど同じ年に生まれたこの二つの技術がインターネットの起源です。 ARPAnetはアメリカ国防総省の高等研究計画局が推進した研究で、パケット交 換技術を採用しました。デジタル情報を共通の基盤としたコミュニケーション 技術のスタートです。それまでのオペレーティングシステムは、高価なハード ウェアを人間が使わせてもらうために工夫して設計されていましたが、UNIX によってその状況は一変します。UNIXは、人間のためにコンピュータ環境は 何ができるのかということを考えた、世界で初めてユーザーの視点に立った象 徴的なオペレーティングシステムです。」

 「70年代は、デジタルネットワークとオペレーティングシステムで象徴され るコンピュータシステムの技術がそれぞれ独立したまま発展する時代です。 ARPAnetはパケット交換ネットワークとしての研究開発を続けるとともにそ の一環で、長距離回線を用いた米国全土に広がる「テストベット」のネットワ ークを構築しました。このときにTCP/IPというプロトコル(インターネット で使われる通信規約)構造が提案され実験が始まりました。一方、UNIXは「基 本OS」としてハードウェアの資源管理の部分を確立し、UNIX開発のベースと なった「C」というプログラム言語とともに、文書の解析や電話回線を使った 遠隔利用など、今の検索エンジン技術の基になるような要素技術の研究開発が 行われていました。」

 「80年代はいよいよ融合の時を迎えます。カリフォルニア大学のバークレー 校でUNIXにTCP/IPのプロトコルが導入され、BSD(Berkeley Software Distribution)として普及するようになります。BSDはソースコードで配布さ れたので、世界中の学生や研究者がこれを読んでインターネットの仕組を勉強 しました。規格だけでなく、稼働するソフトウェアのソースコードがなにより 必要だという、オープンソースの考え方はこのような経験から生まれたことで す。インターネットそのものがオープンソースの産物であることは、時々忘れ られてしまうことです。」

 「これにより、それまで離散していたUNIXコンピュータが主に大学間で相 互接続されるようになり、徐々に接続箇所が増えていきます。こうして人のた めのコンピュータシステムとパケット交換で効率よく誰でも使えるコンピュー タネットワークがいわば結婚したのです。」

 「コンピュータは小型化高性能化が進み、パソコン、ワークステーションと、 個々の人間のためのコンピュータ環境により、人の活動をより広く支えるよう になり、インターネットはそうしたコンピュータの主流であったUNIXに組み 込まれ世界に広がり、結果として、世界の学術研究の世界は、またたくまにイ ンターネットで接続された一つの世界を形成しました。」

 「90年代は、それまで専門家や研究者の間で発展したインターネットが商用 化され、すべての人のために世界へ広がったときです。象徴的には、92年にコ ンピュータネットワークの商用化が始まり、95年にマイクロソフトのウィンド ウズ95がインターネット機能を無料で組み込んだことでしょう。80年代には UNIXが大学や専門家をインターネットにつなぎ、90年代には、ウィンドウズ がすべてのコンピュータ利用者をインターネットにつなぎ、そしてすべての人 が使える環境になりました。」

 「2000年代に入ってからの10年は、携帯電話をはじめとする電波を使った デバイスが発展し、インターネットはコンピュータだけではなく、他の機器が つながってくるという現実がやってきました。自動車などのセンサーも含め、 移動時と空間が無線技術によってサポートされるようになったことで、インタ ーネットは「誰でもどこでも、なんでもつながる」という使命を果たし始め、 環境、健康、教育、経済などすべての分野のすべての人のための、本当の社会 のインフラとしての役割が期待されるようになりました。」

なお、村井純さんについては、慶應義塾主催の学術シンポジウム「震災後の 東日本の復興・再生に向けて」で話を聴き、当日記に下記を書いていた。

慶應の大震災シンポジウムを聴く<小人閑居日記 2011. 7. 10.>

大震災とインターネット<小人閑居日記 2011. 7. 11.>

科学技術で自然環境と安心して共生できる街<小人閑居日記 2011. 7. 12.>