桂三木助の「天狗裁き」前半2019/11/13 06:57

 三木助は、真打になって二年、ネタ下ろしは緊張するという(㐂いちとは逆 だ)。 いろんな不安があって、テープやCDで勉強する。 落語は口伝だから、 師匠によっていろんなパターンがある。 兄(あん)ちゃん、元に戻して(自 分の付けた色を落して)やろうとか、そのままやる人もいる。 原本のテープ をくれたりする。 落語界は、まだテープレコーダーが現役だ。 伯父は四代 目三木助。 可哀そうな先輩がいて、亡くなった人のテープが聞けない。 お 化けが嫌いで、怖いと言い張る。 十年ほど前の話で、兄さん、大人になって、 昼間だったら聞けるよ、と。

 高座が近づくと、見る夢がある。 当日、噺を憶えられずに、舞台の袖にい る。 高座に座っても、噺に入れず、ずーーっとマクラをしゃべっている、今 日のような状態。 焦って、目を覚ます。 そして、稽古しようと思う。 夢 は不思議だ。

 この人は、こんな所で寝て、だらしない顔。 今度は、嬉しそうな顔をして、 笑ってる、面白い夢かなんか見ているんだ。 お前さん、どんな夢を見たの。  夢なんか、見ちゃいないよ。 女の夢かなんか見ていたんだろ、どんな夢だっ たの。 夢なんか、見ちゃいない、しつこいな。 怒んなくてもいいだろう(泣 く)、この貧乏所帯を 切り盛りしているのは、誰なんだい。 張り倒すぞ。 張 り倒せるものなら、張り倒してみろ。 何を! さあ、殺せ! 待ちな、待ち な、お崎さんも、熊の野郎も。 どんな夢を見たかで、さあ、殺せ!になった んかい、仲裁に入りやすい喧嘩をしてくれよ。 お崎さん、俺んちへ行って、 かき餅でお茶でも飲んできな。

 すまなかったな、兄弟。 お前と俺の二人っきりだ、どんな夢を見たんだ?  お前と俺は、ガキの時分からの友達だ。 夢なんか、見ちゃいないんだよ。 お い、おい、おい、それはないだろ、話せよ。 俺は口が堅い、背中を鉈で割ら れて、鉛の熱湯を注ぎこまれても、しゃべらない。 だから、夢なんか、見ち ゃいない。 悪かった、あらすじだけでいいから。 帰えれよ。 俺は、命の 恩人だぞ、去年の暮、お前が風邪で寝込んだ時、駆けずり回って、銭をこさえ てやった。 一昨年の3月28日のことを忘れたか。 何を! お前なんか、 兄弟でも、何でもないからな! バチ、バチ、バチ、バチ! 待て、待て、待 て、お前たち、何で、取っ組み合いの喧嘩してんだ。 大家さん、こいつはど うしても見た夢の話をしないんだ、やな野郎でしょ。 お前も、他人の夢の詮 索をするぐらいなら、店賃を払え。 幾つ? 三つ溜まってるんだ、帰えれ、 帰えれ!

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック