「司馬遼太郎で歴史の理解が止まっている人」2020/03/30 07:00

 日本中世史の呉座勇一国際日本文化研究センター助教、『応仁の乱』(中公新 書)と、『陰謀の日本中世史』(角川新書)が大ヒットした。 どちらも読んで いないが、テレビや新聞の連載などで、その主張はよく目にする。 加藤陽子 さんの『天皇と軍隊の近代史』(勁草書房)の書評(朝日新聞1月11日朝刊) を読んで、頭をど突かれた思いがした。 「近代史においては、歴史像が更新 されていくスピードが特に速い。司馬遼太郎の『坂の上の雲』や『この国のか たち』で理解が止まっている人が本書を読んだら驚くだろう」とあったからだ。

 日清戦争について、かつては陸奥宗光外相の回顧録『蹇蹇録(けんけんろく)』 に引きずられて日本側が意図的に戦争に持ち込んだと考えられてきたが、近年 の研究では伊藤博文らの戦争にはならないという根拠のない楽観が背景にある ことが解明されている、という。 日露戦争に関しても、日本の世論は戦争を 支持していたというのが古典的な理解だったが、以後の研究では日本国民のか なりの部分が厭戦的だったことが指摘され、三国干渉への怒りに燃えた日本国 民が臥薪嘗胆してついにロシアに勝利するという「物語」は日露戦争後に生み 出されたという。

 ただ、最重要な表題の「天皇と軍隊」の関係については、本の説明を受けて も、まだ釈然とせず、今後も考え続けるべき難題だとする。 それは、明治の 軍人勅諭で政治への介入を厳しく戒められた帝国陸軍がなぜ昭和期に政治化し たのか、「天皇の軍隊」であるはずの彼らがなぜ昭和天皇の非戦の意思をふみに じったのか、だ。