花緑の「真二つ」本篇(下) ― 2013/11/07 06:29
もし、お百姓、あの竿を杖に使いたい、もちろん相応のお金は払う。 あの クサレ薙刀を金出して買おうちゅうのか、あんなもの差上げてもいいぐれえだ が、銭くれるなら喜んで頂くべえ。 売れば三十両は堅いと踏んでいる甚兵衛 は、二十文も出そう、いや可哀想だ一朱も出すか、と考える。
だが、奥にいたおかみさんが亭主を呼ぶ。 お前だまされるでねえだよ、杖 にするなら何もあの重い樫の棒を銭出して買うことはなかんべえ、あの薙刀、 大した値打のあるもので、一儲けしようという腹かも知れん。 三分より下で 手放すな、どうしても駄目だったら二分まで負けろ。 甚兵衛は、指出して銭 勘定しているのを見て、一両か二両か、魚切丸と知っていて二十両か、と思う、 二十両でも十両の儲けだ。
交渉開始。 百姓は、ポンと指三本出す。 高すぎる。 俺もそう思うだが …。 甚兵衛は、指一本。 女房に睨まれ、養子だという百姓、また指三本。 甚兵衛、指一本と片手。 また睨まれた百姓、指三本。 ここでとうとう甚 兵衛が、指二本にして、決着する。 母ちゃん、二分で手を打っただ! 二分 なら文句なかんべえ。 甚兵衛、泣き笑いになる。 二分出すのが、泣くほど つれえなら、やめりゃあいい。 二分、受け取って下さい。
甚兵衛さん、急いで江戸へ帰って、この薙刀を金にしようと、駆け出した。 わらじがプッツリ切れて、はきかえようと、薙刀を地蔵様に立て掛けると、地 蔵様の鼻が落ちた。 そうだ、お不動様にお礼参りに行かなくては、と気付く。 百姓家に戻り、成田に忘れ物をしたのでと、薙刀を預けて行く。 奥にしまっ ておいて下さい。
悪い人じゃあ、なかったな。 クサレ薙刀に、二分ももらっちゃって、気が とがめてなんねえ。 土産に何か、ないかな。 そうだ、杖にするっていって たから、手入れしてやんべ。 杖には長すぎるから、のこぎりで挽いて、堅い 樫の棒をようやく半分に短くし、紐をつけた。 堅い木なので、のこぎりがボ ロボロになった。 刃はナタにすると聞いたので、半分にして柄も付けた。
成田でおかみさんにお土産の餅菓子を買って戻った甚兵衛さん、話を聞いて 泣きながら、それで刃の残りの半分は? 裏の池にほん投げただ。 池に駆け つけると、鮒が半身で泳いでいる。 甚兵衛さん、ザブザブザブザブッと池の 中に入って行ったと思うと、向う岸に二つに割れて上がって来た。
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