小里んの「お直し」後半2013/07/24 06:36

 どうやって、飯を食うんだよ。 俺も目が覚めたよ、安に意見された、蹴転 (けころ)の見世が一軒空いているからと。 お前さん、蹴転を知っているの かい、羅生門河岸とも言うんだよ、腕を切られても離さないという。 やるよ りしょうがないじゃないか。 御足がいるんだ、若い衆は俺がやる、玉(たま) はお前がやれ。 出来ないよ。 前は、やっていたじゃないか、この苦しい最 中だ、やってくれよ、頼む、この通りだ。 お前さん、平気なのかい、蹴転は 線香一本二百(文)で、引っ張るんだよ。 「直してもらいな」となって、四 百、六百、五本で一貫になる、そうしないと稼げないんだよ。 大丈夫かい、 妬かないね。 妬くもんか。 それじゃあ、やるけれど、蹴転ではのべつ喧嘩 だよ、地回りも来る、命かけないと。 安んところで、話、決めて来る。

 戸が二枚、畳が三畳、狭く薄暗い所に、提灯があるだけ、中に入ると障害物 競争のよう。 安けりゃあいいとか、面白そうだとか、間違って入って来た奴 の、袖に手を突っ込んで、ひねる。 酔っ払いが来たよ、つかまえな。 おい、 喧嘩する気か。 一つ、ご愉快を。 俺は左官だ、本町で建前があって、みん なで登楼(あが)ったんだが、馬が紙屑籠をくわえたような面の長え女で、や んなっちゃって…。 蹴転は、ツブシってんだろ、いい女なんかいねえんだろ。  あれかい、本当かよ、いいね、寄っちゃおうかな。 どうぞ、どうぞ。

 話があるから、こっちへいらっしゃいよ、もっともっと、こっちへ、さあ、 つかまえた。 お前みたいにきれいなのが、金のためなのか、いくら借金があ るんだ、惚れた男がいるのか。 目の前にいるよ。 油、かけんな、嬉しくな っちゃったな。 俺、通ってくるけど、いいか。 所帯を持とうよ。 俺、左 官の腕はいいんだ。 今まで一人だったんかい。 俺と所帯を持とうじゃない か。 私、借金がある、三十両。 大丈夫だ、明後日持って来る、親許身請を しようじゃないか。 手を出して、ここをさわってごらん、ドキドキしている だろ。 「直して、もらいな!」 おかみさんにしてくれるの。 やさしくし てやるよ。 喧嘩になると、邪険にするんだろ、私、ぶたれた方が好きなの。  「直して、もらいな!」 お直しだよ。 共白髪まで、添い遂げようぜ。 「直 して、もらいな!」 ずいぶん、お直しが早いな。 明後日、三十両持って来 るからな。 浮気しちゃあだめだよ。

 あんた、御足貰うんだよ。 冗談じゃねえ、こんなことやっていられるか。  お前、あいつに惚れているのか。 手練手管だよ。 あいつなら、半殺しにさ れても、いいのか。 お前があいつを見る目付きが違う、止めだ、止めだ、こ んな商売。 何言ってんだい、お前と一緒にいたいから、やってるんじゃない か。 泣くと、白粉が落ちるぞ。 共白髪まで添い遂げたい、顔を貸しな。 白 粉が落ちるよ。

 酔っ払いが帰って来て、「おい、直して、もらいな!」

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